連載企画!職人インタビュー【技と想いのバトン】第5弾 「世代を超えて技術を継承していきたい」
ジュエリーを作る人ってどんな人?

ジュエリーリフォーム専門店 ajour の使命は、大切なジュエリーをお預かりし、蘇らせること。
この使命を 最前線で体現している のがジュエリー職人です。
そんな ajour のジュエリー職人が抱く想い、職人になったきっかけ、そしてお気に入りのジュエリーを連載で紹介していきます。
第5回目のジュエリー職人は松村さん。
若手ながら技能五輪出場者総勢30名が集う展示会を企画し、大盛況を収めました。
柔軟な発想や行動力がどのように産まれてきたのか、これまでの歩みをご紹介いたします。
ジュエリー職人までの道のり
モノづくりとの出会い

ものづくりとの出会いは、幼い頃の環境にありました。
登山用リュックなど機能的な鞄を作る職人だったお父さんの姿を見て育ったことで、
「自分も何かを作る仕事がしたい」と自然に思うようになったそうです。
その思いを胸に、都立工芸高等学校のマシーンクラフト科に進学し、重機械を使ったものづくりを中心に学びます。
同級生には車関係の道に進む人も多かったそうですが、当時の彼が惹かれたものは“ぴかぴか”や“キラキラ”したもの。
進路を考えるタイミングで「磨きについて学びたい」と思ったことから、
「宝石研磨」という職業があることを知り宝石研磨を学べるヒコ・みづのジュエリーカレッジへ進学することを決めました。
ジュエリー制作の魅力に魅了されて

ヒコ・みづのジュエリーカレッジへ進学した彼は、
在学中からその腕前が高く評価され「技能五輪全国大会 貴金属装身具部門」で2020年・2021年と続けて入賞した実力者でもあります。
ところで、「技能五輪って何?」と思われた方もいるかもしれません。
技能五輪とは、国内の青年技能者(原則23歳以下)を対象に行われる大会で、技術の高さを競い合う全国規模の技能競技会です。
若い職人が自分の技術を発揮し、その価値を社会に伝える場として毎年開催されています。
この大会、実は在学生であれば誰でも参加できるわけではありません。
在校生の中から立候補者を募り、校内選考を経て選び抜かれた5名だけが大会に出場できます。
その狭き門をくぐり、さらに入賞まで果たしたという点からも、彼の努力とセンス、そして技術の確かさがうかがえます。
悔しい経験が、彼の魅力をさらに引き出した転機に
実は彼、技能五輪への挑戦は順風満帆だったわけではありません。
2年生のときに初めて立候補したものの、校内選考でまさかの落選。その理由は技術不足ではなく、「周囲とのコミュニケーションをもっと大切にしてほしい」という指摘でした。
技術さえ磨けば評価されると思っていた彼にとって、この言葉はとても悔しいものでした。
しかしその悔しさを糧に、翌年は仲間との意見交換やアイデアの共有に積極的に取り組むよう、意識を大きく変えていきます。
その結果、翌年の選考では見事合格。
そして2020年に銅賞、2021年には銀賞と、2年連続の入賞を成し遂げました。
「技術は一人で磨くものではなく、周りの声からも育てられるもの」
この経験を通じて彼の考え方は大きく変わり、それが今の彼をつくる大切な軸になっているようです。
技能五輪出場者総勢30名が集う展示「deci.」を開催
未来のジュエリー職人へ、技術と姿勢を届ける場として

彼はこの秋、学校法人 水野学園 専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジ 東京校から
「技能五輪全国大会 貴金属装身具部門」に出場した卒業生総勢30名が参加する作品展示会を主催しました。
会場には、20代前半から40代まで、世代やキャリアも異なるクリエイターたちが参加。
未来のジュエリー職人を目指す学生へ向けて、高度な技術力やものづくりの魅力を伝えることが目的の展示会です。
8日間の開催期間で、来場者は約200名弱でした。
在学生をはじめ、同業の職人、先輩クリエイターなど幅広い層が足を運びました。
学生からは技術面や卒業後の働き方に関する質問が多く寄せられ、
長年技術を牽引してきた第一線で活躍する先輩職人からは「世代を超えて技術が継承される場をつくってくれてありがとう」と温かい言葉が届いたそうです。
また彼自身も、他の参加者の作品から強い刺激を受けたといいます。
自己表現の幅や技術の深さに触れ、「自分ももっと成長したい」と前向きな気持ちにつながったとのこと。
展示会は、未来の職人へのメッセージであると同時に、
彼自身にとっても新たな視野を広げる貴重な機会となったようです。
今回の展示作に込めた想い「-Ars longa, vita brevis-」

今回の展示のために彼が制作した作品には、強い思いが込められています。
タイトルは「-Ars longa, vita brevis-(技術を追い求めることは長く、人生は短い)」と名付けられました。
全長2メートルにもなる大きなチェーンには、繊細な彫金の模様が施されています。
曲面に彫りを入れる技術は非常に高度で、常に一発で完璧なバランスを描くためには並々ならぬ集中力が必要でした。
制作に取り掛かると、彼はほとんど休みなく作業に没頭していたといいます。
この作品には、「今だからできる熱量」と「彫金に対する決意」、そして「この世界を極めたい」という想いが込められています。
古代ギリシャの医学者ヒポクラテスの言葉「-Ars longa, vita brevis-」を人生に重ね、唐草模様でつながるチェーンは、人生の中で技術を追い求める姿を象徴しています。
学校を卒業した後も、技術を追求し続けることは容易ではありません。
だからこそ、諦めずに熱意をもって挑戦することの大切さを、同じ道を歩む人々に伝えたいという思いが、作品の制作過程にも表れています。
技術を磨き、人の想いに寄り添うジュエリー職人を目指して
幅広い技術を身につけるための決断と新たな挑戦

もともと彼は別の会社でジュエリー職人として働いていましたが、
将来は独立を目指しているため、より多くの技術を習得し、お客さまの品物を触る機会が多い環境で経験を積みたいと考えていました。
その中で、幅広い技術を実践できることに魅力を感じ、ajourを運営する株式会社オリエント4C'sへ入社を決めました。
日々の仕事では、ベテラン職人たちの感性や考え方に触れる場面も多く、
「お客様の要望をくみ取り、期待を超える仕上がりを提供する姿勢は本当に尊敬している」と語ります。
先輩職人が見せる“お客様第一”の仕事ぶりは、彼にとって大きな刺激になっているそうです。
経験を積めば積むほど、技術は磨かれていく。
だからこそ、先輩たちの背中は今の彼にとって貴重な指針となり、
「これからもさまざまな経験や交流を通して、自分の技術の幅をもっと広げていきたい」と前向きに話してくれました。
ジュエリーを通して伝えたい想い

お客様から預かるジュエリーが増える中で、
彼は「蘇らせるだけでなく、再び日常で使っていただくこと」に仕事の喜びを感じているといいます。
長く眠っていたジュエリーが再び輝きを取り戻す瞬間に立ち会うたび、
幅広いニーズに応えられる技術や提案力の重要性を実感しているそうです。
「眠っているだけのジュエリーは少しさみしい。だからこそ、幅広いニーズに応えられる技術や提案力を磨き、
もう一度日常で輝ける姿へ導くことが自分たちの役割だと感じています。」と語ってくれました。
職人のこぼれ話
もしも別の職人になるとしたら?
プライベートでは料理が好きで、特にパン作りには昔から興味があったそうです。
もしジュエリー職人になっていなければ、「手でこねて形を作るパン職人になっていたかも」と笑いながら話してくれました。
子どものころから、手を動かして何かを極めるのが好きだった彼。
ジュエリーでもパンでも、手で作る楽しさは変わらない――と彼らしい一面を見せてくれました。
職人のMy Favorite Jewery

松村さんが身に付けているリングには、技術と創造性の原点を感じさせる思い入れがつまっていました。
人差し指のリング
専門学生時代、先生がカレッジリングとして作ってくれたジュエリーです。
職人としての道を歩み始めた頃の初心と情熱を忘れないよう、日々身につけています。
小指の一番上のリング
技能五輪に挑戦する際、お守りとして尊敬する先生に作ってもらった特別なリング。
内側には「STRONG」の文字が刻まれており、困難に立ち向かう力の象徴として身近に置いています。
小指の真ん中のリング
社会人として職人デビューを果たした1年目に、自らの手で制作した思い出のリング。
唐草模様の彫りと石留が施されており、制作当時は「これから職人として精一杯技術を磨く」という意気込みを込めた特別な一品です。
編集後記(社内プレス担当より)
取材を通して感じたのは、彼のジュエリーに対する熱意と真摯な姿勢です。
今の彼だからこそ表現できる熱量と決意が宿ってました。
諦めず挑戦し続けることの大切さ、そして手を動かす喜びが伝わる取材となりました。